束芋さんとのトーク「才能の発見」…報告

10/02/15 | カテゴリー:レクチャー/講義 | | 5 コメント

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昨日、青山ブックセンター本店でアーティストの束芋さんと

トークイベントをやりました。テーマは「才能の発見」。

アーティストという発見される立場の人と編集者という

発見する立場の人間が掛け合いをできればいいと思いました。

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およそ150人の人に来ていただきました。ありがとう。(この写真提供:青幻舎)


トークの内容を簡単にまとめておきます。


まず、最初に、僕(鈴木)はいったい誰なのか?ということを説明するのと、

どういう理由で束芋さんと対談をするに至ったのかを説明しました。

束芋さんの作品などについては美術館、画廊、トリエンナーレで見ていて、

最初は若くて今後も伸びていくアーティストのひとり、くらいの位置づけ。

2006年に仕事でニューヨーク〜ミラノ〜パリと出張があった。

ニューヨークは茂木健一郎さんとの仕事で、ミラノはその郊外に

白トリュフの取材をしにいった。そして、村上隆さんの展覧会の

オープニングに合わせて、パリに入った。

パリではポンピドーセンターのブランクーシアトリエで杉本博司さんの

展覧会オープニングも翌日にあった。

そして、束芋さんもカルティエ財団でのオープニングがさらに翌々日に

あったのだが、それの出席は僕の予定にはなく(そんなに長く東京を空けられない)、

その当日のフライトで帰る予定だった。

しかし、束芋さんの展示準備は微調整を残して前日に出来上がっていて、

特別に見ることができた。あの空間で、たった一人という贅沢。

 

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知らなかったアーティストでもないのに、とてもショックを受けたわけです。

これはとんでもない才能である、と。


それで、いつか一緒に仕事をしたいと思っていて、実現したことは後述する。

大きな共同作業以外でも、たとえば束芋さんのモチーフによくなる

昆虫の幼虫について、こんな本持ってるかな? という感じで渡してみたり。

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勉強熱心な束芋さんはそれをすぐに作品に反応させたり。

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このシャネルモバイルアートの作品は幼虫を描いたわけではなく、

頭や羽のない成虫なのだが、ディテールで役に立ったそうである。

そういうふうに、アーティストなどの助けになったり、

影響を与えたりすることができたときは編集者としては喜びだ。


束芋さんの世界をあらためていろいろ見てみたいと思って、

持っていた原美術館の図録を読んでみたり。

茂木健一郎さんがとてもいい文章を寄せていた。

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これは、原美術館での展覧会「ヨロヨロン」の図録から。


一緒にした仕事というのがこれでした。

2007年にレオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」が日本に来たときに

特集を作るため、イタリアに取材に行ったのだが、そのときの

取材旅行に同行してもらったのである。

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レオナルド・ダ・ヴィンチの作品と彼の生涯をたどる旅をしてもらう依頼。


イタリアへの取材旅行に一緒に行ってもらえないだろうかという依頼を

したのが、2006年の暮れくらいだった。

この時点で僕は知らなかったのだが、実は彼女は翌年のヴェネツィア

ビエンナーレのイタリア館招待作家の一人に内定していたのである。

そこへ、僕がイタリア行きを提案したので、逆に驚かれた。

多忙なこともあり、ヴェネツィアの下見に行こうかどうか決めかねて

いたらしいのだが、そういうことなら、イタリアに行こうとなった。


あとで聞いた話では、こういう旅の誘いはときどきあるものの

引き受けないことの方が多いようなのである。


美術ジャーナリストで大学講師の藤原えりみさんを先生にして、

そのイタリア取材旅はとても充実した楽しいものだった。

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これらの写真は休館日のウフィツィ美術館にて。アシスタントの芋々氏と。

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ボッティチェッリ作品も貸し切り状態で見る。

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上はヴィンチ村のレオナルドの生家と言われる家。


そして、この号のために束芋さんが作ってくれた作品その1

「手術台の上のレオナルド」

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レオナルドを手術台に乗せて、まわりには関わりのある人たちが「手」で描かれる。


作品その2「束芋版⟨受胎告知⟩」

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2点とも作品としてあまりに良かったので、

頼んでおきながら、ちょっと(うれしい)驚きだった。


その後もいろいろと取材に協力してもらう関係は続き、

最近では連載の「人間関係」(篠山紀信氏撮影)に登場してもらった。

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女優の美波さんと。右の写真は撮影風景。


去年の浮世絵特集では葛飾北斎と対比。

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束芋作品と北斎の絵の共通点は?


そして、特集「真似のできない仕事術」では軽井沢のアトリエを訪ねた。

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仕事場風景。愛犬との日課である散歩にも同行。


で、才能の発見に戻る。

才能の発見で思い出すのは、この本「天才の発見」荒地出版社刊。

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アメリカのスクリブナー書店の名編集者マックスウェル・パーキンズが

ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、ローリングスなどを発見し育てる物語。


さらに、こんな本も例に出した。団鬼六『真剣師 小池重明』幻冬舎

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破滅型天才棋士の話だが、大沢在昌さんの解説も良かったのでそれを紹介した。

才能というものは待望され、発見され、期待され続ける宿命にある、と。


これら以外にも、歌人の穂村弘さんが無名時代に信じていた

(彼の才能を)「見てる人は見てくれている」という話。

「どこにいるんだ、僕の『見てくれている人』」という呼びかけ。


結論としては、その人の力がホンモノならば、発見されるかどうかは

それほど難しいことではなく、そのホンモノになるために

努力が続けられるか、自分の力を信じ続けられるかが問題だということだ。


さて、「発見」ということに関して、注をひとつ。

たとえば、編集者とギャラリストだと発見のポイントが違う。

(編集者でも専門誌とわれわれのような一般誌では違うだろう)

僕たちはアートマニアでなくたって知っているか知らないかくらいのところで

「これいいよ」って、世の中に送り出すのが仕事なのである。

2001年の「奈良美智&村上隆特集」、2005年の「杉本博司特集」など。

奈良さんも村上さんも80年代から、杉本さんは70年代から活動している。

しかし、展覧会などを背景に、ここだというタイミングで特集を

世の中にリリースする(広く発見される)チャンスをうかがっているのだ。

 

カエルで言うと、オタマジャクシの前足が生えたかどうかくらいの

タイミングを狙っている感じ。一方、ギャラリストは卵を見ているのかもしれない。

これは発見というか、世の中との関係ということもできるけど。

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オタマジャクシ〜カエルの話をするために『絵本百科』の

【カエル】の項目の絵を借り、この本についても紹介する。

昭和38年に子ども向け百科事典として出版され、その後、

増補改訂され、多くの子どもたちに読み継がれてきたこととか。

この本に載っていた【え】の項目についても見せたがここでは割愛。


さて、才能を発見するための僕自身のメモ書き。

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「誰よりも先に感想を言う」というのは他人の意見を前にして、

ブレたりしないように。自分の感覚に責任を持ち、常に研ぎ澄まして

おくために。特別なものにはなんらかの「過剰」さが見て取れる。

古いものは時間というフィルターによって良いものだけが残ってる。

ひとつ才能を発見したら、その周辺(学校だったり、画廊だったり、

同じ師匠を持つ者同士だったり)を見逃してはいけないということ。


以上が主に編集者側の視点に立った才能を「発見する」という話。

 


 

ここから、主に束芋さんに話してもらった「発見される」ということ。


まず、彼女が大切にしていることば。

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そして、今日の彼女を作ってきた師匠や先輩や仕事関係者について。

大学時代の恩師、田名網敬一さん。

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名前をなかなか覚えてくれない田名網先生に作品で覚えてもらおうとする。


「C.ボルタンスキーの作品やA.タルコフスキー「鏡」を見て

作品を制作せよ」という宿題を覚えている。


先生の著書の『一〇〇米の観光』をこの日、読み返して、

以前はわからなかったことが、とてもよくわかるようになったそうだ。

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ある展覧会のトークイベントに来ていた都築響一さんの話があまりに

面白かったので、なにか仕事をしたいとメールで連絡を取り続け、

上京を薦められた話など。

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都築さんの著書『賃貸宇宙』に束芋さんが住んでいた京都のアパートの

写真も載っている。


都築さんの仕事『珍日本紀行』のレイアウトを手伝ったりしている。

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この場所すべてに都築さんは出かけ、写真を撮り、文章を書いている。

それにしてもこの取材地の多さ! このページのデザインを束芋さんが担当。


ここで、都築さんが大学時代の1979年にすでに雑誌『POPEYE』で

活躍していたエピソードを僕が披露。

アメリカの大学特集の取材で3週間もの海外出張に行っている。

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署名の形で作られた記事。都築さんを抜擢したのは石川次郎氏。

写真家・編集者の都築さんの現在の活躍ぶりは周知の通り。

また、彼は束芋さんほか、梅佳代さんや、できやよいさんを

いち早く見出している。さすが。


次に束芋さんにとって重要な人物、ギャラリー小柳の小柳敦子さん。

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世界を相手に仕事をしている、日本を代表するギャラリストだ。

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次に束芋さんが挙げてくれたのが、デザイナーのジョナサン・バーンブルック。

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ロンドンのアトリエで撮った写真とジョナサンの言葉が書かれたポスター。

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ジョナサンはデミアン・ハーストの作品集のアートディレクションをしたり、

六本木ヒルズのロゴ始め、デザイン戦略を立てた敏腕デザイナー。

ここでの仕事は学ぶところも多かった一方、束芋さんにデザイナーの

仕事を諦めさせ、作品制作に集中させる契機になった。


そして、僕について、彼女が話してくれた。

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プレゼントした『日本幼蟲圖鑑』や昔の野菜の種の袋や

大竹伸朗『倫敦香港一九八〇』のことなど。

それぞれがタイミング良く、彼女に影響を与えたそうである。

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そして、お茶の話。これはどちらかというと僕のことではなくて、

武者小路千家・若宗匠の千宗屋さんの気配り/たくらみである。

アーティストの村上隆さんの新しいスペースでお茶会を催すことになり、

若宗匠のお点前をいただいた。客は村上隆さん、モデルのKikiさん、

デザイナーの佐藤可士和さん、そしてなぜか、僕。

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このお茶会の直前に出たBRUTUSが前述の「西洋絵画特集」だったので、

束芋さんと僕が一緒に仕事をしていたのを知っていた千宗屋さんが

ひとつの仕掛けをした。

それは、蓋置に陶芸家・田端志音さんによる「黄瀬戸夜学」を使ったこと。

田端志音さんは束芋さんのお母さまなのである。

そういう心遣い=おもてなしがお茶の心だと、若宗匠から一同学んだ次第。


束芋さんがまとめてくれた「発見されるため」のメモ。

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参加者のアンケートやネットの書き込み、メールで多くの人が

面白かった、興味深かったといってくれたのはうれしかった。

僕としてはあまり経験のない対談、さらに初めて話す演題で

ちょっと不安だったのだが、なにか役に立てたのなら良かったと思う。

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5 コメント {コメントする}
  • 山口和哉

    参加させて頂きました。編集者らしく(上から目線でスイマセンw)小見出しの付いたトークショーで判り易く楽しく聴かせて頂きました。印象的だったのは鈴木さんの『一般誌の編集者として卵には興味がない』という趣旨の発言と(ビジネスとして当然だと思います)お二方の発見する、される側の五箇条です。現場にいる方ならではの、シンプルだけど説得力のある意見だと感じました。有難うございました。

  • 仁藤輝夫

    お二人のトーク、素晴らしかったです。束芋さんの魅力、創作のひみつが鮮やかに描かれていて感動しました。編集がとても行き届いていて、3Dで超大型マガジンを見ているような思いがいたしました。
    鈴木さんはとびきりの絵師であると強く感じました。

  • 仙台通信

    「新しい発見のために」と「発見されるために(?)」はエッセンスですね。
    でもそのまわりのディテールも素敵。
    あー、ほんとに聴きに行きたかったなぁ……。
    これからも良いアート、アーティストの発見を!
    雑誌という媒体を生かしてください。

  • 高木英樹 ( TOKYO/HIDEKI )

    始めまして
    茂木健一郎さまのクオリア日記、本日、更新記事にてお勧めされてます、そちらからの者です。
    拝読させて頂きまして多様性の本質。 

    多様性は あらゆる事柄にありますよね印象的な
    洋服の着こなし
    文部科学省大臣さま
    国会にて背広のボタンを全部外されズボンのポケットに手を突っ込んで国会を闊歩、そこでテレビカメラに気付き、
    「 何か? あ! オリンピック選手の入賞!」
    次の瞬間の映像は ビシッと背広を着こなしの大臣様
    「気持ちを入れ替え入賞、良かった」
    お言葉よりも映像の身体で表現のコメントが私には印象的でした。

    拝読させて頂きまして
    意思の疎通がシンプルに大切と気が付かせて頂きました いくら才能ある方でも内に秘めていて はい終わった ではよくないですものね。才能を見抜く皆様は不思議と才能ある皆様の内に秘めていることを上手に引き出される気がします それは、才能を見抜かれる皆様が寛容なゆとりある精神をお持ちだからなのでしょうか?

    過日、ニッポン放送さまに茂木健一郎さまご出演
    書籍のプレゼントとの私も応募 

    偶然の幸運にも ニッポン放送さまより届きました
    茂木健一郎さまのサインとともに お花の絵
    そして  茂木健一郎さまからの
    メッセージ 『 美しく 』

    鈴木さま お写真の配列から全てにおかれまして
    美しさ 読み取らせて頂きました。

    ありがとうございます。

  • 安部 美幸

    茂木さんのブログから こちらを拝見させていただきました。殺風景なる表現しか思い浮かばない愚直者ですが 今日のブログにて表現させていただきました。
    今までは 想像が平面でしたが 少し厚みがでてきた
    ように思います。

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