和歌がもとになった美術品、工芸を集めたコレクション展。
自然や季節の感動、あるいは恋心を三十一文字の歌に託してきた。
さらにそれを造形化し、生み出された美しい品々。
日本美術と和歌の密接で幸福な結びつき。
10年前にサントリー美術館で「歌を描く 絵を詠む - 和歌と日本美術」という展覧会が
あったが、同様の企画。しかし、コレクションと展開の違いが、それぞれ良いものだ。
どちらの展覧会にも武蔵野図屏風が展示され、例の歌が添えられている。
コレクション展「和歌を愛でる」
根津美術館 2月16日(日)まで。
休館日:月曜日 ただし1月13日(月・祝)は開館し、翌14日(火)休館
入場料:一般1000円
《吉野龍田図屏風》紙本金地着色 江戸時代 17世紀
〈古来より和歌に詠まれた名所を、桜は春の吉野、紅葉は秋の龍田川という、
特定の季節の景物と結びつけて描く。枝に結ばれた短冊には、『古今和歌集』と
『玉葉和歌集』からとられた吉野と龍田川、桜と紅葉にちなむ和歌が記される。
装飾性の高い名所絵といえよう。〉
(作品解説より)
《本阿弥切(古今和歌集断簡)》伝 小野道風筆 彩箋墨書 平安時代 11-12世紀
〈もとは巻子本で、名称は本阿弥光悦が所持したことにちなむ。
書かれた3首の和歌は『古今和歌集』巻第十八・雑歌下の部分で、昔を懐かしむ心、
話がつきない友人との語らい、遣唐使節に選ばれて憂慮する気持ちなどが謳われている。〉
(作品解説より)
《武蔵野図屏風》紙本着色 江戸時代 17世紀
〈『続古今和歌集』の歌をもとにした「武蔵野は月の入るべき山もなし
草より出でて草にこそ入れ」という和歌などから、一面の秋草の中に埋もれるように
月を描く武蔵野図屏風が生み出された。この屏風は定型とは異なり、
月だけでなく、太陽や奥に広がる水面も描かれる。〉
(作品解説より)
重要文化財《嵯峨山蒔絵硯箱》木胎漆塗 室町時代 15世紀
〈『後撰和歌集』の在原行平の和歌「さがの山…」(*1)を意匠化した硯箱。
蓋裏の山際にかかる月や流水の傍らに立つ家屋などによって
嵯峨山とおぼしき風景を表し、さらに、身の懸子の「嵯・峨」や蓋裏の
「の・御幸・絶にし・千代」の文字により、行平の和歌に結びつける。〉
(作品解説より)
*1:嵯峨の山みゆきたえにし芹河の千世のふるみち跡はありけり
重要文化財《春日山蒔絵硯箱》木胎漆塗 室町時代 15世紀
〈蓋表には月に照らされた秋の山野に佇む鹿を、蓋裏には山中の茅屋で
鹿の声に耳を傾ける男を表現し、『古今和歌集』の壬生忠岑の和歌
「山里は…」(*2)の情景を硯箱に表現している。
また蓋表には「け・れ」、蓋裏には「は・ことに」という歌の中の文字が隠されている。〉
(作品解説より)
*2:山里は秋こそことにわびしけれ鹿のなくねに目をさましつつ
お茶に関する展示は「初釜 来福を願う」として、
吉祥や干支をテーマにした道具を展観する。
重要文化財《鼠志野茶碗 銘 山の端》美濃 桃山時代 16-17世紀
〈茶道具には、作品から喚起されたイメージを和歌に結びつけた「歌銘」がつけられた。
銘の「山の端」は花園院の和歌「五月雨ははれんとやする山の端にかかれる雲の
うすくなりゆく」にちなむ。白い釉薬を山の端にかかる雲に見立てたのであろう。〉
(作品解説より)
「小袖の彩り」というテーマ展示も行われている。
《萌黄地鷹草花文様振袖》絹 染・刺繍 江戸時代 19世紀
《白地染分け草花文様小袖》絹 染・刺繍 江戸時代 18世紀
狩野山楽によると言われる「百椿図」の展示。
江戸時代、さまざまな椿を愛でるブームがあったという。
朝顔のブームもありましたね。
《百椿図》(部分)伝 狩野三楽 紙本着色 江戸時代 17世紀 茂木克己氏寄贈
調度品との組み合わせなど。
《茶杓》 千利休作 象牙 桃山時代 16世紀
《色絵椿文向付》尾形乾山作 江戸時代 18世紀